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第9話:違和感に霞む世界
“失って初めて気づく”なんて言葉があるけど、割と本当のことなんだなと思う。
俺にとって真琴が必要な存在なのはとうに分かりきっていた。
が、その度合いがどれくらいなのかは、正直自分でも測りきれていなかったんだ。
とにかく、傍でずっと真琴を見ていたい、知りたい、と欲するばかりで、真琴がいなくなってしまったときのことなんて考えもしなかった。
真琴を失って初めて、自分がどんなに幸せだったか身に沁みて理解した。
真琴と一緒にいる、それだけで心が弾んだ。
真琴が俺を求めてくれないのに胸が軋んでたまらなかった。
楽しい、辛い、嬉しい、苦しい。
メトロノームのように感情は揺れて、それはもう忙しいものだった。
充実してたんだ、何もかもが。
でも、今は真琴がいない。
独りになって、嫌でも自覚してしまう。
自分の性の虚しさに。
満ちていたものを、溢れていたものを、
全てなぎ払われて、削ぎ取られて。
残ったのは、空っぽのただれた器だけだった――。
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