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第14話:涙は破け、夢剥がれゆく
「いいか、ボタン押すぞ」
「んー」
テーブルの上で項垂れている友人の間延びした返事を聞いてから、俺は呼び出しボタンを押した。
ポーンとBGMの邪魔にならない程度の音量で店内に音は響き、待ってましたと言わんばかりに大学生ぐらいの女性店員が営業以上の笑顔で、俺たちの席まですっ飛んできた。
「失礼いたします。ご注文はお決まりでしょうか」
溌剌とした声はこんな状況下に置かれていなければ、十分に俺の心を元気にしてくれただろう。
後ろで一つにまとめられた清潔感のある長く伸びた黒髪は俺好み、隙無く施された化粧も彼女の笑顔を卒なく引き立てている。
綺麗だ。
あぁ、一年、いや半年ほど時が巻き戻ってくれたら。
とても華やかな笑顔を送ってくれた店員に応えるため、こちらも頬を上げ口元をゆるめてできる限りの笑顔を作る。
ぽっと店員の頬が桃色に染まった。
まだ自分が笑顔を作れていることに一安心して、手元で畳んでいたメニュー表を開く。
「えっと、シーザーサラダとダブルチーズハンバーグ、フライドポテトと豆腐グラタン味噌風味、全部単品で。あとサイコロステーキの洋食セット、ライスでお願いします。デザートにアップルパイ、料理と一緒でいいです。で、拓真は?」
視線を隣に戻せば、いつの間にか体を起こしていた拓真がぼーっとメニュー表を眺めていた。
「……若鶏の唐揚げ単品」
「と、ドリンクバー二つ。以上です」
注文を告げると彼女は一言一句も間違わずにメニューを繰り返し、ピタリ斜め45度の見事な一礼をして、俺たちの夕飯を準備すべく調理場へと向かった。
「お前、そんなに食えるのかよ……」
これまた気の抜けた声が隣から転がってくる。
拓真は両腕を枕に頭を寝かせ、顔だけはこちらに向けていわゆるジト目で俺を見ていた。
「バーカ、こういう時に食い溜めしとかないと毎日腹減って仕方がねーよ。ファミレスとか一年ぶりだし」
「ていうか、金は? あるの?」
一緒に暮らすようになって、朝を牛乳一杯で済ませるくらい切り詰めていることを知られてしまったことが、ここで仇になる。
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