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医者は、
「健康そのもの! 何も心配いりませんよ」
と太鼓判を押した。
私は、その白と黒のまだらの顔をした医者にお礼を言って、病院を出た。
何もかも、昨日とは違って見えた。普通ではありえない色をしていた。
空も、雲も、ビルも、道路も。
私は前向きに考えようとした。きっと、疲れているのだ。明日になれば治るさ。それに、ちょっとくらい見た目が変わったからって何だ? 大きな影響はないじゃないか。
しかし、心のどこかで警報が鳴り続けていた。これは緊急事態だ。早く手を打たなくては、取り返しがつかなくなる。
だが私は何も手を打たなかった。仕事を終え、家に帰ると、そのまますぐに床に就いた。
次の朝、目にしたものは、無茶苦茶に崩壊した世界だった。
視界に映るのは、支離滅裂な直線や曲線、幾何学模様。
全ては歪み、ねじくれ、もう、何も原型をとどめていなかった。
私は思った。全ては終わってしまった。私は狂ったのだ。
命を絶とうにも、その方法がない。立って歩くこともままならないのだ。
私はただ崩壊した世界を眺めた。そうしていると、本当に思考が狂いだすような気がした。
私は目を閉じた。もう、永遠に開けるつもりはなかった。
そのとき、声がした。
「あ、ごめんなさい」
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