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佐々貴美鷹は、いつも下を向いている。
幼いころから自分への評価が気になって、周りを気にして生きているうちに、突然どうやって人と話せばいいのかわからなくなってしまった。
だから、今みたいに不用意なところで声を掛けられると、動転して哀れなほどに動揺する。
というのを、飯尾静稀は聞いたことがある。
―――赤面症、とか。
飯尾は臥したままの顔を少し上げて、悟られないように佐々を伺った。
耳まで真っ赤に染めた顔は、明らかに女慣れしてなくて、多分、下らない下ネタか、水着の女の写真だけでその白い生真面目そうな顔は赤く染まるのだろう。
きっとこのクラスメイトは知らない。
体が思うように動かなくなる苦痛も、快楽に抗えず頭の中が全部溶けて自分が下半身だけの生き物になる感覚も。
自分とは関わりのないものだと、そう思って生きている。
そう考えただけで、この無垢な生き物を完膚無きまでに壊してしまいたくなった。
詰まらなそうにノートを写す顔が赤面する。唇を噛んで掠れた声で「やめて、」と「ごめんなさい」を繰り返す。
さっきと同じ、掠れた細い、漸く押し出したような悲痛な、呻きで。
ぞくと、背中が震えて、ヤバいと思った。
周期的に考えて、そろそろクる筈だった。
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