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 薄暗い照明の下を煙草の煙が這っていった。  入江は咥え煙草のままでレジカウンターに向かう。  「おい、」  息切れの合間に声を掛けられる。視線だけ走らせると床に大の字で広がったままの神田が頭をあげてこちらを見ていた。  「下着位穿けよ。漏れてんぞ」  あからさまな物言いに入江が自分の下肢を確認すると吐精しすぎて萎んだ性器と睾丸の向こう、白く肉付きの悪い内腿を神田の精液が垂れていた。  無視して一歩踏み出すとさらにドロリと溢れ出た。  「だから、なに」  入江は平淡で涼やか声で宣い、神田はそれに目を丸くした。  「なに」  訝しんだ入江の目に険がこもったような気がしたが、微かに上目蓋が強張った程度の変化だ。本当に牽制を孕んだものだったのかは神田には判らない。  「あんたが言葉を返すとは思わなかった」  「君は俺をなんだと思っているんだ」  なんだろうなと真剣に考え始めた神田を鼻から吐き出した溜め息で放置して入江はカウンターの内側にある棚から錠剤を引っ張り出した。  「惚れてるよ」    カウンターから出てきた足の狭間から、こぽと神田の思いの残滓が溢れた。  十分な思考の果てに辿り着いた答えであるように神田は呟いて立ち上がる。  ぞわと全身の毛が逆立った気がした。  「だから、アンタのその匂いと体温と全部に欲情する」  判ってるんだろ。  弧を描いた目許に諦観が滲んでいて入江は神田の凭れたビリヤード台に歩み寄った。  口許に軽く握った拳を宛がい、くひくひと妙な音で笑う。  この男の笑い方を特に好ましく思ったことはない。しかし、無性に耳が欲する時がある。今は入江の耳に馴染み、腹の奥に熱を生む。  ビリヤード台の端。行為の拍子に落ちたのだろうミネラルウォータの、ボトルを拾い上げ、キャップを捻った。
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