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その手を高い熱を帯びた幼くも厳つい掌が掴み込む。
「飲むなよ」
その目が、散々ヤりちぎったあとの癖に渇いて餓えて、赤い情欲を灯していた。
「アンタも、俺に惚れさせてやる。薬なんか飲むなよ」
「くっ、」
今度は入江の細い喉から鳩の鳴くような音が漏れる。くつくつと背中を震わせて笑った後で入江は涙目のまま神田を見返した。
「いやだね」
匂い立つような色香にまた眩暈して、喉が鳴った。
「抑制剤クスリを飲まなければ、あっという間に集団レイプの被害者だ」
別にケツの穴ほじくり回されるのが好きな訳じゃないんでね。
球体人形のような美しさで吐き出した言葉ごと、入江は薬をのみこむ。
錠剤はじんわりと溶けて、直に神田を翻弄する過剰な性欲も押さえつけられるだろう。
「じゃあ、俺が来る前に飲めばいいだろう」
苦々しく呟くのがまたガキ臭くて神田は歯噛みする。入江が一人の時間に合わせてこの店に来る自分。来るとわかっていて、薬を飲まずに、自分に犯される入江。
翻弄されている。
「アンタに逢う度、俺はひたすらアンタが欲しい」
入江は唇にペットボトルの口をつけたままで、店内は淡い沈黙と、ダーツマシンの待機音が漂っていた。
ぴちゃ、
ペットボトルの中の水が揺れる。
入江の呼吸の音が、鮮明に響く。
「偶然だろ」
やんわりと嘯いて入江は笑う。
入江の腹の中、今日2錠目の薬が溶け出していた。
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