空蝉《うつせみ》

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物語はまだ序盤。 『帚木(ははきぎ)』の章を半分ほど仕上げたところだった。 光源氏と頭中将(とうのちゅうじょう)が女性談義をしていると、そこへ左馬頭(さまのかみ)藤式部丞(とうしきぶのじょう)も加わり、話は女性の品定めへと発展していく。光源氏、十七歳のことである。 「全く、殿方ときたら……」 式部は小さくため息を吐き、遠く輝く月を見上げた。 「あの方も、何方かとこんな話をなさっているのかしら」 式部の言う『あの方』とは、藤原道長のことである。 道長は、時折熱のこもった文を寄越す。 その度に式部は、さり気なく話をはぐらかさなければならない。 この一連のやり取りは、いつも式部の神経をすり減らす。 一刻も早く、道長の興味が他へ移ることを願うばかりだ。
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