第二章【あの日の記憶】

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「船、楽しみだね!」 「おい、珀人。俺のこと押すなよ。船から落ちたらどうするんだよ。」 「あれ…もしかして、理空くん船怖いの?」 「別にそんなんじゃないし。これそんなに速くないだろ。」 「本日は小樽運河クルージングにご参加頂きまして誠にありがとうございます。私本日のクルーを担当させて頂きます。三海と申します。どうぞ宜しくお願いします。」 理空と珀人が言い争いになろうとしていた時、クルーのお姉さんがやって来てクルージングの始まりを迎えた。 高揚感とほんの少しの緊張を抱えクルージングは出発した。 橋の中に入れば。 「わぁ。すごーぃ!トンネルだ!」 「声出したらやまびこ聞こえるかな?」 「大きな声だしたら他の人の迷惑になるから駄目だよ。」 とはしゃぎ。 赤いレンガの建物の前を通れば。 「わぁー!大きな建物!」 「こちらの建物はある映画のロケに使われことがあるんですよ」 「へぇー。すごーい!」 「中に入れるのかな?」 「この建前は現在は蟹などの缶詰を作る工場になってます。」 などと、お姉さんから新しい知識を得た。 クルージングの途中、藍莉がポツリと呟いた。 「引っ越ししたら、こうしてみんなでお出掛けしてはしゃぐことも出来なくなっちゃうのかな…。」 「やめてよ。今日はそういうこと言わない約束でしょ。最後まで笑顔でいるって決めたじゃない。」 引っ越しの話を切り出してから寂しそうな顔を殆どしていなかった藍莉だが、本当は新しい環境に行くのが不安なのだと感じた。 私は思わず藍莉を抱きしめた。 少ししんみりしつつ、地上とはまた違う景色を堪能してクルージングは終了した。
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