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「引っ越すことになった」
いつもの休み時間。廊下に座ってだべっている俺らに向かって、ナオコはそう告げた。
いつも俺たちの隣で猫みたいに丸まって寝ている女が、今日は猫に追い詰められたネズミみたいに口元に手を当てて、小さく座っている。
「「引っ越す、って」」
「どこにだよ」
「いつだよ」
俺とミナミは同時に声を揃えて、それぞれ違う質問をした。
ナオコは俺たちのシンクロ具合に、小さく吹き出したけど、
「二学期終わってからで、あと、小室町だって」
「なーんだ。近いじゃん」
ミナトの言葉に、いじけた声を出した。
「高校はどうせバラバラになっちゃうんだから、中学はずっと一緒にいたかったんだもん……」
あからさまにがっかりした顔して、抱えた膝小僧の上で顎をカクカク鳴している。
ナオコとは小学五年からのつきあいだし、遊びのレギュラーメンバーだけどさ。
俺からしたらナオコは女子だし。やっぱそこはミナミとは違うし。
ナオコを横目に、ミナミに視線を流す。
俺よりミナミの方がナオコと仲がいい。
「なんで引っ越すことになったんだよ。 母ちゃん、なんかあった?」
小さく息を吐いたミナミがそう言ったけど、ナオコは俺たちのリアクションに少々不満を感じているのか、口をとがらせたままだ。
「知らない」
プイッって音がしそうなくらい、勢いよく横を向いてしまった。
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