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それからの私は叔父の猛反対を押し切り、漫画を描き続けた。学業と並行して、定期的に貸本屋に作品を収めた。それらは好評のうちに迎えられた。
学部を卒業した年に、シベリアに抑留されていた兄が帰ってきた。そして兄が回復するのを待ち、私は専業漫画家としての人生に入った。
漫画雑誌が創刊され、週に何本もの連載を抱え、アシスタントとすし詰め状態になりながら作業する日々が続く。
辛いことも多いし、上手くいかないことばかり。だが私は描き続けた。
肉体を治療する医者にはならなかったが、私の作品を見て生きる力を得られる人間が一人でもいるなら……それは素晴らしいことだと思うから。
自宅に戻ると妻がにこやかに迎えてくれる。家に寄りつかないことを冗談半分になじられるが、止めろとは一言も言わない。
かつて人喰い鬼だった彼女は、今も私の一番の読者なのだ。
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