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自作を目の前で人に読まれるのはなんだか気恥ずかしい。小学校の時はそんなことはなかったが、どうして変わったのだろう。
外のベンチに腰掛け、ノートに視線を落としている彼女を私はじっと観察した。絵に描いたような美少女だった。まっすぐな髪に白い肌、そしてうるんだ大きな瞳。歳は私よりいくつか下だろうか。大学生のはずもなく、おそらく近所に住んでいるのだろう、と私は結論付けた。
やがて最新ページまで読み終え、彼女は顔を上げた。
「すごく面白いわ。学生さん、勉強なんてしてないで漫画家になったらどう?」
「そういう訳にもいかないんだよ」
ふうん、と彼女は不思議そうな顔をしたが、それ以上尋ねてこなかった。代わりに奇妙なことを言う。
「ここに描いてある人喰い鬼って、わたしのことね」
「鬼に立ち向かう姫君じゃないのか」
「違うわ、わたしにはひとの命を奪い取る力があるのよ」
私の顔色を見ていた彼女は表情を改めて言葉を継いだ。
「ごめんなさい。ふざけすぎてしまったわ。怒らないで……ねえ、医学生さん、あなたならわたしがどんな状態にあるのか分かるんじゃない?」
問われて私はふいに悟った。白い、白すぎる肌にうるんだ大きな瞳、そして細い声。まさか――
「君は、……」
病名を言葉にするより先に、彼女が黙っていてと仕草で示しから、私はその単語を飲み込んだ。
「なるほど。確かに、いまの君には人の命を奪う力がある。症状からすると、まだ弱いだろうが……」
「……ね? だから人喰い鬼なのよ」
そして彼女は寂しそうに微笑んだ。
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