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「人喰い鬼はこの後どうなるの? 姫君に退治されてめでたしめでたし?」
ノートを手渡して来ながら彼女が尋ねる。
「じつは未定なんだ。姫君に退治されても良いんだけど、なんだか納得がいかなくてね」
「あら、良かった。それならまだ鬼が幸せになれないとは決まっていないのね?」
「鬼が……幸せになる?」
考えてもみなかった展開を希望され、私は驚いた。古今東西、鬼とは退治されるものであって、幸せになるものではない。
――でも、本当にそうだろうか。鬼だって救われたいと願っているのでは……?
考え込む私を見て、彼女は明るく笑った。
「考えてみてね。そして続きが描けたら、また読ませて。わたしは天気の良い日はいつでもここに来るから」
彼女は約束を守った。
ふらふらと出歩いて病の状態が心配だったが、彼女は家人も知っていることだし、血も吐いていないから大丈夫だと主張した。
ノートを渡すと彼女は熱心に読み、ページ数が少ないと不満そうな顔をした。
熱心な読者の存在が私のくすぶっていた心を動かすのを感じた。
『人喰い鬼』は短い単純な作品にするはずだった。だが、人喰い鬼に自己投影する病身の少女が現れたいま、私は鬼を単なる敵役にしておくことが出来ず、ストーリーは複雑化して伸びていった。
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