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人喰い鬼の過去を私は懸命に考えた。鬼は何故生まれたか、何故人を喰らうのか。
そういう生き物だという考えも浮かんだが、私はあえてこの鬼が元は人間だったというストーリーを選択した。
「ただの農民に過ぎなかった若者が、呪いによって人喰いの鬼になるのね」
「そうだよ。彼は心優しい村の若者に過ぎなかったが、母を強盗に殺され、敵討ちのために自ら鬼となる呪いを受けたんだ。そして強盗を引きちぎり、喰らった彼はもう人に戻れない。人喰いの鬼として生きていくしかなかったんだよ」
「悲しいお話ね」
「そう。この鬼は恐ろしいけれど、それ以上に悲しい存在なんだ」
彼女はページに目を落として何度も読み返していた。それから、ふいにうるんだ瞳を天に向けた。
「人の命を奪った鬼にはもう、倒される以外の結末はないのかもしれない」
私は驚いて彼女の横顔を見る。
「どうして」
「理由は何であろうと、彼は鬼となって見知らぬ人々の人生を壊してしまった。今さら彼にどんな幸せが訪れるっていうの」
「でも、人喰い鬼の幸せな結末を君は望んでいるだろう?」
彼女は黙っていた。その目がうるんでいるのは病のせいではなく、泣いているのだと不意に気付いた。
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