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人喰い鬼のための物語
万年筆の青いインクだけで描いた漫画のページを示し、彼女は言った。
「ここに描いてある人喰い鬼って、わたしのことね」
私は驚いて彼女を見つめた。まっすぐな髪に白い肌、そしてうるんだ大きな瞳の美しい少女が人を喰らう鬼とは。
「鬼に立ち向かう姫君じゃないのか」
尋ねると彼女は細い笑い声をたてた。違うわ、と強い視線で私を見すえて言う。
「わたしにはひとの命を奪い取る力があるのよ」
それは昭和二十一年の、暖かい春宵のことだった。
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