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「まあいいさ。この後は急ぐ予定もない」
征司は濡れたジャケットを脱ぐと
折り目正しく椅子の背にかけ言った。
「おまえの方は?」
「僕……ですか」
思いがけない気遣いにトクンと心臓が跳ねる。
「この後、予定は何もなしか?」
神の御前だからというわけでもなかろうに。
征司はいたく優しく尋ねるんだ――この僕に。
「……ありません」
前を向いて答えるだけで精一杯だった。
「そうか」
先日のガラスの破片。
昨夜の黒い羽。
僕に危害を及ぼすモンスターと化したはずの兄。
「濡れてないか?服」
にしては征司の反応は
あまりにも予想外だったんだ。
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