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何事もなかったように
着替えを済ませカーテンを開く。
「お宝は無事だ」
「お疲れちゃん」
気だるげにソファーに身を投げるデザイナーに
征司はマタ・ハリの衣装を放った。
「あんた最高。今度から顔パスで入れたげる」
デザイナーは咥えていた煙草を
いっぱいになった灰皿でもみ消すと
「結構です」
「そう言わずにまたいらっしゃいよ」
頑なな僕を尻目に口端で静かに笑った。
「それで?欲しい物は?」
「何も。何もいりません」
結局汚い大人に弄ばれただけの僕は
腹立たしくてそっぽ向いた。
「あ……」
しかし運命の歯車は
どんな時でも回り続けているのだと僕は確信する。
(あのガウン……!)
いい風にか悪い風にかは別として――。
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