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本にも、そろそろ嫌気が差し始め、残念ながら一心不乱に読み続けることはできなかった。早く結論が欲しかったし、本を離れた他の世界にも行きたくなった。そのとき、しばらく空いていた右隣の席に『あの娘』がやってきた。最初にひどく驚いたが、すぐに驚きは消えて、次に幸福感が湧き上がってきた。彼は彼女の放つ光に圧倒された。こういう状況で読書に戻り、平静を装うことができるのは有難かった。動揺とは未熟さであるから、それを見せないでいられた。『……神とは一切が可能であるということであり、それから、一切が可能であるということが神なのだからである。』久々に面白い文章に出会う。それ以上に彼女が気になる。彼女はまるで貴族のような優雅さで、キャラメルマキアートを飲んでいた。それからスマホを静かにいじり始めた。あらゆる可能性があった。幻滅、意外性、破綻、勝利。無限の可能性の中で最悪の選択は、何もしないでいることだった。ただ、この場を支配しているのは、明らかに絶望と孤独だった。こんなにも美しい女性が隣にいることが、絶望と孤独を一層強めるのだった。最高の読書にも不満は残った。もう少し決定的な言葉が欲しかった。しかし……。
「すいません。君、この前路上ライブやってたでしょう?」
「ええ」彼女は困惑しながら、返事をした。紺色のシャツと白いスカートのコントラストが、絵のように鮮やかだ。「見てくださったんですか?」
それは感情がない心ここにあらずの態度だった。気分を害してはいないが、気乗りはしていない。永井には会話を続けていくことが、とても難しく思えた。
「用事があって、全部見れなかったけど、『ルーム335』だけ聴いた。物凄く良かった」
すると危惧は現実となった。会話は完全に途絶えた。その上、彼女の心の中がまったく読めない。
「路上ライブっていい練習になるのよ。プロになるためには避けられない。でも、さすがに観客二十人には落ち込んだわ。早く一万人の前で演奏したいな」右の石が左の石に話しかけて、一度死んだ会話が復活した。終わったと思ったのは永井だけで、彼女は別に終わったとは思っていなかったのだ。路上ライブという試練を自らに課している彼女が、偉く思えた。「あなた、『死にいたる病』を読んでたのね。私も少し前に読んだことがあって、この本で人生変わったわ」
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