第1章

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「言うことなし? いやありありだよ。とにかく素敵なライブだった。完璧な無名の存在というシチュエーションに新鮮さがあってね。偶然に宝石を発見したような感じかな。でも業界が目をつけるのも時間の問題だろう」 「この写真もまたいい。さすが世界が認めた気鋭の写真家栗田清二だ。天才って最高。滅多に現れない天才が、僕の前に二人もいるなんてまるで魔法みたいだ」 「そう私は天才なのです。天才って本当に数少ない稀少な存在だから、孤独の苦しみが半端じゃないんだ。どこにでもいる、ありふれた奴らに孤独という感情は存在しない。それじゃ君、この写真の評価ポイントを聞かせてよ」  「観衆二十人何のその。吹きさらしのステージ何のその。私は信じる道を進むわってな感じ。この写真のテーマは『揺るぎない意志』です』 「君こそ天才だな。君はいつでも目にする写真一枚一枚に、正確な意図を読み取ろうと全力を傾ける。そういう実践と認識の地道な積み重ねこそが本物の文化というものだ」  永井は自分が天才だとは思わなかった。天才が創造する夢空間を、彼が創造することはできず、しがない薬剤師に過ぎなかった。だがそんなことはどうでもよかった。心の中で謎の女性への憧れが、大きくなるばかりだった。続いて関心は栗田の方に移行し、彼の今後の活動予定を聞いてみたくなった。 「栗田さん、次はどんな活動をなさるんですか?」
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