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「なんだい、君。またさぼりかいな」
本棚と睨めっこしていたマコトは、声をかけられた、誰だかはわかっている。
「うるさいなあ。あんたこそ、油を売ってもいいのか?」
「私は仕事をしているよ。ここの司書という仕事をね」
「僕に嫌味口をきくのが司書の仕事とは、到底思えない」
丸い眼鏡に青色のエプロン。三つ編みの黒髪がかかったしたり顔。なにより自分より高い背の丈。マコトはこの司書が好きではなかった。
「図書館に籠ることが、学生の本業とは思えないね。単位は取れているのかい」
「驚いたな。大学図書館の司書というのは、学生の成績についても水を差すのかい」
「そうさ、試験前になると血眼で本や論文を探しにくる連中が多いもんだ。単位習得の面倒を見てやっているとも。手当を上げてもらいたいもんさ」
「僕がそんな青臭い感じに見えるかい、単位を渇望しているように」
「渇望していなさそうだから、水を差してやっているのさ、青い草へやるようにね」
「大きなお世話だよ、ツカサさん」
皮肉な物言いだ、おおよそ本ばかり読みすぎて、ろくな言い回しを覚えて来なかったのだろう、マコトはいつも思っていた。
ツカサはこの大学図書館の司書を行っている。いつもは受付に立っていたり、本の整理や検索を手伝っている。
こんな人とは思わなかった、初めて図書館に訪れた時は、特に気にもしていなかったのだが、マコトが何回も図書館を足繁く通っていると、声をかけるようになってきた。
最初は「何か探し物です?」という問いかけだったが、次第に「君、講義はどうしたの?」とか「昨日も同じ服だったが?」と、いけ好かないことを話すようになってきた。
何回か『軽口を叩いてくる司書がいるので注意してほしい』と、図書館に意見したこともあるのだが、全く変わらない。どうやら、彼女は図書館の中で偉い立場の人間らしい。
マコトはこの司書が好きではなかった。
それでも、彼には図書館に通う理由があった。
「もう少し司書らしくしたらどうだ」
「司書らしくとは?」
「本を読みたい学生に嫌味口を叩かず、お淑やかに受付に立っているとかね」
マコトは踵を返し、“自然科学”の本棚に向かった。
「ならば、受付に立っているかな」
マコトは本棚から科学書を取り出し、机に座って読み始めた。
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