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マコトが、まだ幼稚園児の頃。
父親の仕事の関係で、数ヶ月だけ都心から地方の田舎に移り住むことになった。
その当時の家の斜向かいには、老夫婦が住んでいた大きな屋敷があり、そこに孫だろうか親戚だろうか、少し年上の子供がいた。
マコトはよく、終ぞ名前も聞かなかったその子と遊びに行き、ザリガニを釣ったり爆竹を鳴らしたりして遊んでいた。
もともと人見知りが激しく、その後も友達という友達ができなかった彼にとって、あの子は最初で最後の友達だったかもしれない。
しかし、程なくして一家はまた都心に帰ることになり、彼はその友達に別れを告げなくてはならなかった。
それをいうと、その子供は、
「こんや、いえをぬけだして、すごいところへいこう」
と提案をしてきた。
月が欠けないその夜に、幼いマコトはひっそりと家を抜け出した。
街灯も疎らな中、月明かりだけを頼りに、その友達の家まで行くと、同じく寝巻きの友達が手を引いて、月の光も届かない森の中を進んで行く。
一寸先も見えない真っ暗闇。
どこかで無く夜鳥と羽虫の声。
強く引かれる左腕。
肌という肌に当たる木々の枝。
最後の葉を潜れば。
「光る、川……」
「ああ、真っ青に光っている」
「蛍ではないのかい?」
「いや違う、水全体が光っていた。まるで、月明かりに呼応するような感じに光っていた。幻だったのかもしれないけど……」
「都心からどのくらい離れていた?」
「わからない……もう十数年も昔のことだし、僕もとても幼かった」
「両親に聞けば、昔住んでいたところを教えてくれるんじゃないか?」
マコトは少しうつむき、
「両親は、僕が小学生の頃に離婚したよ。僕を引き取ったのは父でも母でもない親戚だった」
「なるほど、ねえ……」
「だから、僕が知っているのはこれだけ」
「それしか手がかりが無いのかい」
「ああ、これっきりだ」
「それを、ずっと探しているんだな」
「……もう十数年は、ね」
「……」
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