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その日の国語の授業は、教科書に載っていた外国の児童小説が題材だった。
その話の主人公である少年にはどこかものぐさな気質があって、何かと言えば学校をサボろうとするようなキャラクターだった。そのようなくだりを朗読した後、教員は呆れたような笑いを口の端っこに浮かべながら、日本にも似たような子供がいるねえ、と例の口調で言った。すると、クラスの何人かが私の方を見て、教員と同じような薄ら笑いを浮かべた。その視線に私は、不意に胸を抉られるような思いがした。
彼らは、普段おくびにも出さなかったのに、実は、そのように私のことを見ていたのか。私は、かつて黒板に『緘黙』と大書されたときのことを思い出した。
そうだ。私は、『そのような子供』なのだ。あのときの担任にとってのみならず、今ここにいるクラスメイトたちにとってもそうなのだ。思わず突きつけられた事実に、私は衝撃を受け、打ちのめされる思いがした。
しかしそれは、そのような彼らの私に対する見方が私自身に覆い被せられている、あるいは貼り付けられているということであるよりも、むしろ私自身の方が、そのような彼らの視線の渦の中に吸い寄せられ、呑み込まれていくかのような感覚で、私はすっかり、その感覚に捕らえられてしまった。
私はたしかに何か、クラスメイトたちに裏切られた気持ちになったのだが、しかしそれ以上に、彼らの隠されていた心というものに、言いようのない恐怖を感じたのだった。私を呑み込もうとしているのは、まさしくそのような、私には見えないところで黒々と渦を巻く、彼らの心である気がした。
そんなようなことがあって、私は件の教員がますます嫌いになった。と同時に、クラスメイトたちへの警戒心もまた強まっていった。
彼らに自分からは、けっしてこれ以上のエサを与えてはいけない、スキを見せてはいけない。もはや私は、それまでのように呑気にあけすけに、彼らとは対すること接することはできなくなった。
そしてそのまま、私は小学校の卒業を迎えた。
(つづく)
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