第4章

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 この出来事をピークにして、Kに対する暴力的な行為は、むしろ表立ったものとしては減少していったかのように、私には見えた。もちろん、陰では依然として継続していたのだろうが、少なくとも私たちの見える範囲では、せいぜい悪ふざけでいじる、という程度には収まっているかに思えた。  一方『ぬりかべ』に対しては、この件以来いっそう誰も、やむをえない必要最低限の事柄以上には、積極的に彼女に関わろうとする者はいなくなった。必然的に彼女は、いながらにしてこのクラスにおいて、あの空席と同等の、『無』なる存在になっていったわけだった。  あの頃、『ぬりかべ』自身の心の中では、一体どのようなことが起こっていたのか、私にはわからない。しかし、あれから時を重ねた今となっては、たとえどのような意味においても、それを過大あるいは過小なこととして捉えようとは、私は思わない。ただ言えるとすれば、その『過大にも過小にも捉えない』という観点さえ、あの当時の私たちはもち合わせていなかったということだ。無とみなす、ということはまさしくそういうことであろうと、私は考える。 (つづく)
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