第5章

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 次第に汗ばむ気候となり、水泳の授業が開始される頃合いが現実に近づくにつれ、私はいよいよ心理的に窮地に立たされた。そして私はある日、意を決して、母の鏡台の引出しから脱毛クリームを取り出して、風呂場に入った。  私は、チューブからクリームを絞り出して手に取り、腋と股間にたっぷりと塗りつけた。白くねっとりしたクリームは、肌に塗りつけると一層ベトベトして、その感触が非常に気持ちが悪かった。  説明書きの通りに数分そのままの状態で待ち、それからティッシュペーパーで丹念に拭い取ると、面白いように縮れた毛が全て除去できてしまった。思った以上の効果に私は、少し興奮をおぼえながら石鹸を泡立て、べたついた身体を洗い流した。  しばらく経って、腋の方は何ともなかったのだが、次第に陰嚢の表面がチクチクと痛みだしてきた。何となく熱も持っているようだった。気にはなったが、しかし結局その日はそのまま放置し、私は家族に対しても素知らぬふりをして、残りのその日一日を過ごした。  翌朝起きてみると、下着が茶色く汚れていた。私の下腹部は火がついたように熱く、ヒリヒリとした痛みを絶え間なく感じた。どうやら私の陰嚢は、かぶれて化膿してしまったようだった。  私は、腹が痛い、と言ってその日学校を休み、母がパートに出るのを待って、爛れた陰嚢に化膿止めの軟膏を塗りたくった。触れるたびにビリッと電気が走るような鋭い痛みがあった。私は、落胆と後悔に涙を流しながら、夏掛けの毛布にくるまって寝た。
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