第5章

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第5章

 前年の秋頃から次第に体毛が濃くなりはじめた私は、この夏が近づくことを非常に恐れた。梅雨明けの時節前後になれば、学校で水泳の授業が始まることになる。それまでにはこの、腋と股間に生えはじめた縮れた毛に、早々に対処しなければならない。その手立てを一体どうするか。私は、悶々と頭を悩ませる日々が続いた。  Kの股間に生い茂る陰毛を目撃したのは、私にとって決定的な打撃だった。彼の体毛が毟り取られる様を見て、自分自身のそれをこのまま放置していたら、きっと私もあのようにされる。私は、その予感に心底恐怖した。  私はもう、自身にそういう『特徴』を持ってはいけない人間なのだ。私はこれ以上、その事実をもってこの者は『そういう人間』である、などと、私以外の他人に見られてしまうような何かを、自分自身にもはや何一つ付け加えてはならない。この世界の中で、私が自分自身を保っていられるためには、自分自身として『何もない人間』でいなければならない。小学校時代の経験以来、私はそう確信していた。  にも関わらず、どうしてだか私には次々と、私自身の意に反して『そういう何か』が降りかかり、後から後から私に取り憑いてくるように思えた。なぜ、自分にはこんなにも変わるがわる、余計なものがくっついてくるのか。なぜ、それがよりにもよってこの自分なのか。私は、そのような私自身の宿命(と、私はそのように信じ込んでいた)を、いつも本心から呪っていたものだった。
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