第2章

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第2章

 かつて私自身の席が教室の中で空席になっていたことがあった。小学四年の秋頃のことだ。  そのひと月ばかり、私のクラスでは、そこに不在であるはずの私が形成する、埋め合わせられることのない一つの空白が存在していた、のだろうと思う。思うには思うのだがしかし、それを私としてたしかなことだと言えないのは、もちろん私自身がそれをこの目で見たわけではないからなのだが。  そのひと月ほどの間、私は日中の大半を自室(と言っても、私だけの個室というわけではない。団地の2DKに私と両親、それに父方の祖母と暮らす狭苦しい住居で、DKにつながる居間替わりの部屋には、主に祖母が寝起きしていた。そのもう一方の居室に、私と両親が布団を重ねるようにして寝ていたのだったが、一応そこを私は、自分の部屋として使っていたわけだった)で、ひとりラジオを聞いて過ごしていた。  私は殊に、NHK第2で放送されていた、世界の気象現況を聞くのが楽しみだった。ウラジオストクだのリオデジャネイロだのといった、なんだか不思議な名前を持った町の天気が、日本と同じように晴れとか雨とか曇りとかであるのが妙に可笑しかった。  パートに出ている母が用意していった昼食を、私と同様に日中の大半をひとり居間でテレビを見て過ごしていた祖母と一緒になって食べ、夜には仕事から帰った母や父もともに夕食を摂り、それから両親と同じ部屋に寝て、朝になれば7時にセットした自分用の目覚まし時計の音で起きた。それ以前とほとんど変わらない段取りの生活を、私はそのひと月の間も送っていた。ただ、学校に行かないことを除いては。
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