拷問のダンス・ビート

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 私はどれ(くらい)眠らされていたのだろう。  ぼんやり頭の中に霧がかかってるみたいだわ。  ここはどこかしら。暗くてよく見えないけど、ひんやりとしたコンクリートの壁に囲まれてるらしいわね。地下室なのかしら。まだ頭が少しクラクラする。私はなぜこんなところにいるのだっけ。はっ! 私には重要な任務があったはず、こうしてはいられないわ。うっ、手が動かない、なぜ? ああ、後ろ手に縛られている。ああ、足も動かせない。椅子に座らせられた状態で縛り付けられている。しまった! 私としたことがつまらないドジを踏んだものね。あのデータ保管室にセキュリティの睡眠ガス発生装置があったなんて。赤外線ビームは完璧にすり抜けたはずだったのに。未確認のセンサーがあったのね。そう、あのファイルをデジタル・カメラで盗撮した直後、いきなりガスに包み込まれたんだわ。そして捕らえられてしまった。フッ、でも慌てることはないわ。スペシャル・ツールが仕込まれた腕時計がある。竜頭(りゅうず)に手が届きさえすれば……。ああ、駄目、届かない。もう少し手をひねれば……。駄目。あっ、このままではまずいわ。うう、早くしないと。あっ、駄目。あっ、うん、あっ、あっ、あっ。  女はその黒いレザーのジャンプ・スーツに包んだ身をくねらせた。まるで吸血植物の化身であるかの様な麻縄で、まず背凭れの後ろに回された手首、さらに足首、膝を縛られ、それに加え胸の辺りを二回りキュッと縛り上げられている。そしてさらにその上からがっちりと木製の椅子に無慈悲な縄で幾重にか縛り付けられていた。その髪はやや茶色で唇は鮮やかな(べに)だった。  女が身をよじる度に黒いレザーにギチギチと食い込んだ麻縄がさらに固く締め付けるかの様である。
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