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星降る夜に銀の舟で
琴子さんは笑わない。
琴子さんはあまりおしゃべりをしない。
琴子さんはいつもひとりだ。
四角くカットしたチーズみたいな建物がぽんぽんと並ぶ中、深い紺色の瓦屋根は今どき珍しい。
その一軒家の南側に面した廊下のサッシ窓はいつもわずかに開いていて、僕はそこからするりと忍び込む。
初めてこの家を見つけたときと同じように、太陽はうんと高い位置にいて、辺り一面にきらきらとジュレみたいに光る陽射しを振りかけている。
僕の茶と黒が混じり合った複雑な縞模様の身体も容赦なくかぶってしまうけど、この頃はその熱がいくぶんやわらかくなってきたように感じられる。
庭の梨の木に、淡い金色の小ぶりな実がいくつも揺れている。
『琴子、お昼だよ!』
ペパーミントグリーンの絨毯を前脚が踏んだと同時に聴こえた機械的な声に、はじめは飛び上がったものだけど、今はもう慣れた。
僕の身体の横にはがっしりとした机の足。なぞるようにするすると視線を上げていくと、そこでお仕事をしていた琴子さんが、のっぺらとした無表情のまま自分のスマートフォンを手に取ったところだった。
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