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背もたれのついたイスをギシギシ言わせながら、琴子さんはゆっくりと立ち上がると、僕のことにはおかまいなしで行ってしまった。
きっとお昼ご飯を食べるのだ。琴子さんの毎日は規則正しい。
朝早くはきたことがないからわからないけど、琴子さんのスマートフォンは、午前中に一度『琴子、休憩だよ!』が鳴る。午後にも鳴る。
その合間に『琴子、洗濯物入れよう!』が鳴って、『琴子、夕飯の買い出しだよ!』が鳴る。
おかげで、僕は教えられなくても琴子さんの名前を覚えてしまった。
僕は琴子さんを追いかけるようにサッシ側に向いた机を追い越し、部屋を進み、キッチンに入りかけたところで脚を止める。
そこには、おいしいカリカリフードのお皿と、ゆらゆらと波紋を描く澄んだお水のお茶碗が置いてある。
お水の表面に舌の先をつける。冷たい。
エアコンの風が届かない場所のはずなのに、この温度を保っていてくれるのはありがたい。
振り返ると、ベージュのテーブルの一角に琴子さんが座っていた。
こちらを見ようともしない。
まったくの無関心な顔つきで、オレンジ色の野菜ジュースの入ったグラスを片手に、おそらくマーガリンを塗っただけの食パンをもそもそと食べていた。
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