星降る夜に銀の舟で

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 僕たちは、見ただけでその人間の年齢がだいたいわかる。琴子さんは四十歳前後だ。猫の年齢で言うところの六歳の僕と、そう変わらない。  細い黒のフレームのメガネをかけていて、長い黒髪をきゅっと一本にまとめている。そのせいか、レンズの奥の瞳は少しだけつり上がっている。  痩せているけど、健康状態が悪そうではない。  毎日座りっぱなしなのに、姿勢もそんなに悪くない。  琴子さんは、この一軒家に独り暮らしだ。ほとんどしゃべってくれないので、その理由はわからないけど。  泥棒みたいに現れた僕をなぜ追い出さないのか、その理由もわからない。  お腹と喉の渇きが満たされると、僕は廊下までまた歩いて、そこでごろんと横になる。毛づくろいをはじめる。  仲間内でもそこまで暑がりじゃない僕は、サッシのガラスを突き抜けてくる陽射しの熱さがちょうどよく、心地いい。  外で寝転がることに比べたら、イタズラなカラスの襲来やノラ犬に遭遇することもないぶん、ずっと心が休まる。  気がつくと、後ろの部屋ですでに琴子さんが机に向かいはじめていた。  それを、僕は胴体をぐんとひねって眺める。  パソコンのキーボードを叩く音が、他に何の音もしない部屋にぷかぷか漂っていた。
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