星降る夜に銀の舟で

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 黒い彼女の金色の目がこちらを向いたとき、僕は言いよどんでしまった。  僕は生まれたときからノラ猫だから、大切なものがパッと思いつかない。  ある日、いつものように琴子さんの家でご飯を食べて、廊下でごろごろしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。弾むような音。  とても珍しいことだ。僕が出入りするようになってからは、たった一度、郵便屋さんがハガキを持ってきたときだけ。  玄関に向かった琴子さんがしばらく経っても部屋に戻ってこないから、僕はなんとなく心配になって、そちらへ向かってみた。  玄関マットの上に後ろ向きで立っている琴子さんの足の間から、向こう側をのぞくと、そこには知らない女の人がいた。琴子さんより年上だ。 「あら! 猫!?」  女の人は、僕に気づくとすっとんきょうな声を上げた。 「かわいい。琴子さん、飼いはじめたの?」  嬉しそうに膝を曲げて、僕を観察する。 「いいえ。ノラ猫みたいです。動物を飼う気はありませんから」  頭上から降ってきた琴子さんの声は、無機質でカチンとしていた。  エプロンをつけたままの女の人は、とたんに悲しそうに眉毛のお尻を下げた。
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