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知らなかった。
琴子さんの悲しみが深くて、僕はどうにもできないと思ったら気持ちが沈んで、うなだれたまま、知らず知らずのうちにカリカリのお皿の前に行っていた。
一口食んで、気づく。
カリカリは僕が食べるとき、いつも小気味いい音を立てる。もし出しっぱなしにしているんだったら、少しは湿気てしまうはず。お水もそうだ。
お水も、カリカリも、僕が見ていない間に、琴子さんは何度も新しいものと交換しているんだ。
いつやってくるか知れない、気まぐれな僕のために。
そういえば、あのサッシの隙間がピタリと閉じられてしまっていたことだって一度もない。雨の日も。風の日も。
琴子さんは笑わない。
琴子さんはあまりおしゃべりをしない。
琴子さんはいつもひとりだ。
だけど、琴子さんは優しい。
愛していないと言いながら、ちゃんと僕を気遣ってくれている。
そして、琴子さんは、きっと、とても寂しい。
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