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その日の夕方、久しぶりに直人と会うことができた。
二人とも、この春からはそれぞれに就職が決まり、もう同じキャンパスに通うこともなくなってしまう。そんな明日香の寂しさを知るよしもなく、直人は「実験で忙しい」と言うばかりで、今年の初詣に出掛けたきりデートらしいデートの時間を過ごせずにいた。
卒論発表会が終わった後も、残りの実験をしているという直人の理学部の事情は、文学部の明日香には到底、理解が及ばなかった。付き合い始めた大学二年の頃と比べると、二人でゆっくり過ごす時間がめっきり減っている。
新入社員としての新しい生活が、もう来月に迫っている不安や、自分より魅力的な女性が直人の会社には居たらどうしようという心配など、悶々とした気持ちが明日香をいらだたせていた。
案の定、直人と待ち合わせて早々に、些細なことで、明日香はきつく直人に当たっていた。明日香自身も、明確な理由のない八つ当たりに似たものだと感じてはいたが、一度破裂してしまった感情を、そう簡単に自分では止められない。
結局、明日香の機嫌がおさまることもなく、直人が予約してくれていたレストランでの夕食を済ませた。久々のデートとは思えない、最悪の雰囲気の明日香だった。
レストランを出た後、それでも直人は根気よく「スイーツでも食べようか」と誘ったが、明日香は断って駅へと一人で歩き出してしまった。
やれやれとした表情の直人が明日香の後を追った。
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