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しばらく明日香の横を歩いていた直人が、ぼそっとつぶやいた。
「サヨナラだな」
「え?」
明日香は立ち止まった。そして、さすがにまずいと思った。
普段、理不尽に怒ることがない直人に甘えていることは、十分にわかっていた。今日も、家に帰った頃に、また直人から連絡がくるだろうと、どこかで期待している自分もいた。
直人が立ち止まった明日香の前に立つ。
「文学部の明日香ならサヨナラの由来って知ってるよな」
「え?直人、怒ったの?」
明日香の質問にかまわず、直人は続けた。
「そう、サヨナラの由来」
明日香は直人の顔をじっと見つめた。
平然とした表情をしている。
むしろ、だからこそ直人は本気なのかもしれないと思った。
すっかり元気のなくなった明日香は、なにかの本に書いてあったサヨナラの由来を思い出して答えた。
「『左様ならば』が短くなったっていうやつ?」
「そう、さすが文学部」
諸説あるものの『別れなければならない、左様ならば仕方ない』の一部『左様ならば』を省略した言葉がサヨナラだという説がある。『左様ならば』が別れの挨拶として、本来は使われていたという。
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