2.後悔

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『ピンポーン』 恭ちゃんの部屋のドアの前に佇む。 今日は曇り空なのか、空を見上げても月も星も見当たらない。 ここに来るまでにすっかり私の心は鎮まっていた。 むしろ、どこか怒りさえ感じてきていた。 たしかに、私は悪いことをしている自覚がある。 けれど、それを自ら申し出たのは他でもない恭ちゃんだ。 「元カレを好きなままでいい。」って。 それなのに、私は恭ちゃんの仲間たちから悪く言われ、仲良しの沙織とも気まずくなってしまった。 この広い世の中、本当の本当に両想いになってから付き合い始めるカップルなんて、どれほどいるんだろう。 “付き合ってから好きになったよ”も、よく聞くフレーズだと思う。 私は、「別れてやって」なんて言われるほど、悪いことをしているのかな。 今まで、真面目に、コツコツと生きてきた私は、人生で初めての悪役。 望んでいなかった突然の配役になんだかすごく惨めで、やるせなくて、歯を食いしばった。 『ガチャ』 「凛乃、いらっしゃい。入って」 いつもの、ユニクロの部屋着を着た恭ちゃん。 でも、いつも私が心安らいでいた笑顔はどこかぎこちないことに気がついた。 私は玄関の土間に入り、ドアを閉めた。 靴は脱がなかった。 部屋の奥へ歩いていた恭ちゃんが不思議そうに振り返る。 「恭ちゃん、別れよう」 「…。」 恭ちゃんは、黙ってそのまま佇んでいた。 実際にこの言葉を口にしても、私に名残惜しさはない。 やっぱり私は恭ちゃんのこと、好きだけど好きじゃなかったんだ、と改めて気づく。 しばらく経ってから、 「とりあえず、上がって。それから話そ」 恭ちゃんの顔は、無理矢理笑おうとしているように見えた。 胸がチクンと、痛む。 「私、それだけ言いに来たの。今まで一緒にいてくれて本当にありがとう。ごめんなさい」 きっと、ダラダラと理由なんて話さなくたって、恭ちゃんは分かってるはず。 でも、そこから事態は私の思いもしなかった方にすすむ──。
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