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“無になる”ってこういうことをいうんだろうなと、そんなことを考えていた。
悲しくないし、怒りもないし、もちろん、嬉しくもない。
でも、最近の、悲しかったり、悔しかったり、いろんな感情に目まぐるしく襲われていた時より、ずっと楽に感じてしまった。
──なんて間抜けな格好なんだろう。
自転車に乗るし、楽ちんだからという理由で履いていた、ウエストはゴムで緩いシルエットのスボン。
それは私の足元に、だらしなく落ちて踏まれている。
さらによりによって、どうして今日、お気に入りのナチュラルな白を選んでしまったんだろう。
そして右足だけ履いているパンツ。
脱ぎそびれた黒のスニーカー。
「…あはは」
小さな声で自嘲した。
全てが済んだあと、恭ちゃんは目も合わせず、何も言わず、よろよろとトイレに入って行った。
そのまま出てきていない。
微かに聞こえてくる、鼻をすする音。
私はその間抜けな格好を静かに整えて、部屋をあとにした。
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