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所々に泥の着いたズボンで、駅までの道を歩く。
1人になった途端、ポロポロと溢れ出る涙。
本当は怖かったのかな。
でもそれよりも、自分が情けなくて仕方ない。
恭ちゃんのあんな姿も見たくなかった。
いつも優しかったその手が、凶器にさえ見えた。
でも、いい加減わかった。
恭ちゃんをあんな風にしたのは私だ。
友達が心配するほどに、きっと日頃の恭ちゃんの様子まで変わってしまってたんだ。
ふと思い出した、桃也くんの言葉。
『俺なりに、好きだと思って付き合うんだけどね。相手には全然足りないみたい。それで不安になって辛くなるんだって』
でも もう大丈夫。
私と離れれば、恭ちゃんは元の優しくて温かな笑顔の素敵な男性に戻れるんだから。
スマホを開くと、通知は0件。
自分なんてこんなものか、と思い知る。
必要として欲しい人にはいらないと言われ、必要としてくれる人とは上手くいかない。
私はこのどうにもならない気持ちと戦ううちに、急な衝動に駆られ、気づけば半年ぶりに[月島圭]のコール画面をタッチしていた。
出るわけない、と分かっていながら、ぼんやりと発信音を聞く。
出ないよね…
切ろうとした時だった。
─発信音が止んだ。
そして、
『………もしもし?』
99%自信のあった私の予想は外れた。
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