1779人が本棚に入れています
本棚に追加
「………………………え?」
たったの一言だったけれど、直ぐにわかった。
紛れもなく、圭の声だった。
大通りに出る手前の細道で立ち止まり、民家のブロックにもたれかかる。
『え?じゃなくて。凛乃が電話したんだろ?何か用?』
用なんてもんじゃない。
さっきまでのことが吹っ飛ぶほどの衝撃を受けていた。
『用がないなら切るけど』
「あっ!!えっと…元気?」
『……元気だよ』
「そっか、よかった」
こんな、安否確認がしたかったわけじゃないのに。せめて何かひとつくらい話題を考えておくべきだったと後悔する。
突然のこの状況、他になんて言葉が出てこよう。
『そっちは?』
「へ?」
『凛乃は元気なの?』
私はなんてバカなんだろう。
恭ちゃんと付き合って、友達の輪も広がって、少しずつ前に進めている気がしてた。
なのに、私は少しも変われてない。
私のことを大切にしてくれる人の言葉は右から左へ流れていくのに、私を捨てたこの人の、たったこれだけの言葉に舞い上がってしまう。
ボロボロと、涙が溢れ出た。
「…げんきだよ!」
涙声になったの、バレちゃったかな。
でも、努めて明るく言ったつもり。
酷く縋りついた過去は消せないから、せめて、これ以上私の面倒くさい部分は見せたくなかった。
『ふーん。』
「うん…あの…」
『わり、休憩終わるから切る。じゃあな!』
今、私…。
[会いたい]って、そう言いかけた…。
最初のコメントを投稿しよう!