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『俺、今出かけて帰るとこなんだけど拾おうか?車だし』
「えっ!悪いよそんな、大丈…あっ」
思い出した。
このズボン。
ナチュラルな白のズボンに、ところどころ茶色の模様。
明るいところへ行けばさらに目立つだろう。
土曜といえど、住宅街の小さな駅だから、タクシーは待機していない。
『ちなみにどこにいるん?』
「三俣駅の近く…」
『あっ、それならすぐだわ。駅で待ってて』
「ありがとう…助かる」
なんてタイミングのいい人なんだろう、桃也くん。
持つべきものはやっぱり友達だな。
*****
「お待たせー。なんでこんな暗い所?」
10分も待っていない。本当にすぐだった。
私は、スボンの汚れが目立たないように、駅の改札から少し離れて暗いところで待っていた。
桃也くんは、白い車に乗って現れ、助手席側の窓を開けた。
車に詳しくない私はよく分からないけれど、四角いシルエットが印象的な5人乗りの車だ。
白車の王子様だなぁ、なんて心の中で呟いてみる。
「わざわざ拾いに来てくれてありがとうね」
圭の電話のことを、彼の親友に話したくてウズウズしながら助手席のドアを開けると、
「…凛乃ちゃん、転んだりした?」
同時にパッとルームランプが付き、私のズボンの汚れもパッと照らされた。
「あっ…うん、さっきそこで、ちょっと」
ルームランプは盲点だった。
まずいっ…っていうのが顔に出てしまったと思う。
桃也くんの目が見られない。
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