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「ごめんね、私汚いね。ハンカチ敷いて座るから。えっと…」
バックの中を慌てて探る。
「ずいぶん変わった転び方したんだね」
「…。」
それはそうだよ、ズボンは360℃汚れてる。
自分で言っておきながら、転んだ汚れではないのは明白だ。
どうしよう。チラリと桃也くんを見ると、いつもの笑顔がない。
「ハンカチはいいよ。早く乗りな。帰ろ」
そう言われたけれど、わたしは黄色の花柄のハンカチをシートに敷いてから座った。
「三俣駅って、あの辺なにかあったっけ?」
車が走り出してからも私が何も話せないでいると、桃也くんから話しかけてくれた。
話題は話題だけど。
「えっとね、友達の家があって」
「そっか。」
「うん。」
…。気まずい。
「桃也くんは?」
「あー俺も友達と遊んでた」
「そっか」
「うん」
この時、圭のことはすっかり頭からとんでいた。
「あ、その角曲がって少ししたところの、左側のアパートだよ」
「久々だな、前はよく圭と…。あ、ごめん」
「あ、ううん」
思わず出してしまった話題に、気をつかってくれたのだろう。
車がやっとすれ違えるくらいの道を進み、見えてきた3階建てのアパート。
私の部屋は2階だ。当然だけど部屋は真っ暗。
「あの辺に停まってくれれば…」
しかし、私が言いたかった場所には珍しく車が停車していた。
深夜の道で、ハザードランプが赤くチカチカと付いていて目立つ。
近づくにつれ、それは私の見覚えのある車だと気づいた。
昼間に見ると緑っぽいのに、夜は青っぽくなる、あまり見かけない色の車…。
胸がドクッと波打ち、息が上手く吸えない。
恭ちゃんが、来てる─。
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