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それから私は、助手席の窓を少しだけ開けて、通り過ぎていく暗い夜の住宅街を見ていた。
少しずつ涙も気持ちも落ち着いてきたけれど、ドクドクと黒く打つ心臓はそのままだった。
10分後、到着してバック駐車が始まり我に返ると、その場所は私の知る桃也くんの家ではなかった。
「あれ?ここ…」
「あ、そっか。知らないよね。俺、去年家出たんだ。今は1人」
落ち着いた雰囲気のマンションの駐車場。
10階くらいまであるだろうか。
窓は沢山あるけれど明かりのついているのは数える程だ。
「えっ!」
時間差で驚きが声になった。
まさか、一人暮らしをしていたなんて思いもよらなかった。
そうなると、二人きりになってしまう。
友達ならアリなのかな。
「あー大丈夫だよ、2部屋あるから」
そういう問題?
まあでも、今更私たちがどうにかなるなんて考えられないし、こんなボロボロの状態の私が言える立場じゃない。
「あ、うん」
桃也くんは、“親友の元カノ”なんていう面倒くさいだろう友達を泊めてくれるなんて、なんて優しいんだろう。
恭ちゃんとあんなことがあった後なのに、男性の部屋でも怖くないと思うのは、他でもない、桃也くんだからだ。
彼から放出されるマイナスイオンは、昔から私の心を解してくれる。
「桃也くんって、レスキュー隊みたいだね」
「なんだそれ」
桃也くんのはにかんだ笑顔が、すごく久しぶりに感じた。
やっぱり、さっきのことには触れないでいてくれる。
桃也くんの部屋は、エレベーターに乗り、5階だった。
「綺麗なとこだね」
「たまたま修繕されたばかりでさ」
私は、
「ちょっと片すね」
と言って先に入って行った桃也くんに続き、
「お邪魔します」
と軽く頭を下げて、彼の部屋に入った。
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