1780人が本棚に入れています
本棚に追加
**
「いない…」
桃也くんのマンション、部屋のドアの前。
怯まないように来てすぐ勢いで押したインターホン。
私の勇気は虚しく、応答はなく玄関の小窓に明かりさえなくて、ドアを背にしゃがみ込んだ。
駅からここまで、少し傾斜のある歩道を走ってきた。
ドクドクとこれでもかと高まっていた鼓動が、少しずつペースを取り戻す。
バックからスマホを出して液晶を見ると、時刻は21:27。
土曜の夜。
帰りは遅いかもしれない。
朝かもしれない。
でも。
ここで待つ。
桃也くんのこと。
電話をするつもりは初めからなかった。
『もう会いたくない』
って。
話さえ聞いてもらえないかもしれないから。
最初のコメントを投稿しよう!