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5階に着いてエレベーターの扉が開き、うっかり考え出すと頭の中を駆け巡って止まらない色々な考えをとりあえず停止させ、そんな幻の出現する部屋に向かう。
そして、その玄関扉が見えた時だった。
俺は、無意識に足を止めた。
俺の部屋の前にしゃがみこんで腕に顔を埋めた幻が、とてもリアルにゆっくりと顔を上げた。
廊下の明かりに、泣き腫らしたぐちゃぐちゃの顔が照らされる。
何度も見た、凛乃ちゃんの泣き顔。
今日は一段と酷い。
いや、酷いのは俺の頭か。
「……桃也くん」
けれどその幻は声まで発した。
彼女の存在を確かめるため、止めていた足をゆっくりと進める。
「桃也くん、好き。……好きです」
泣きじゃくりながらも、確かにそう言った。
…末期にも程がある。
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