1783人が本棚に入れています
本棚に追加
一週間後、2人で食事に言った帰り道、私は恭ちゃんの車の助手席で告白された。
それは恭ちゃんらしい
「一目惚れでした。付き合ってください」
って、とてもシンプルな言葉だった。
でもその時私は圭のことしか考えられなくて、不覚にも自分に好意のある人の前で泣いてしまった。
恭ちゃんは涙を隠そうと俯いていた私に、覗き込むように顔を近づけ、そのまま背もたれに押し付けるようにキスをした。
唇に、圭のそれとは異なる感覚が広がった。
一瞬、何が起きたのか分からなくて。
狭い車内、背には車のシート、避けられなかった。
「元カレが忘れられないならそのままでいいよ。俺が凛乃ちゃんのそばにいたいだけだから」
心の中では驚いて後退りしたけれど、よくドラマで見るような、突き飛ばすとか手で口を抑えるとか、そんなことはしなかった。
不思議と、嫌ではなかった。
でもそれはきっと、恭ちゃんだからとかじゃなく、久しぶりの人の温もりが心地よかったんだと思う。
今思えば不意打ちだったし事故といえばそれまでだったのに、真面目に生きてきた私はとてもずるくて。
“恋人でもない人とキスをしてしまった”事実を消したかった。
この期に及んで“真面目な子が好きな圭に嫌われたくない”って。
付き合えば“私は綺麗なまま”だって。
そんな考えがいっきに頭を駆け巡った。
それに、支え続けた彼にもういらないと捨てられて、心から寂しかった私のことを好きと想ってくれる人。
私は、目の前に差し出された“恭ちゃんの優しさ”を掴まずにいられなかった。
まさかこの日の出来事や私の判断が、この後の私の人生の歯車を大きく狂わせることになるなんて知りもせずに――。
最初のコメントを投稿しよう!