第一章

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 十月二十一日。秋の風が吹きこむ早朝、雲ひとつない晴天とは裏腹にサラの目覚めは最悪だった。  サラは先程からずっと濡れたブロンドの髪をタオルで拭っている。五分前、夢の世界に入り浸っていた彼女を現実に引きずり戻したのは突如浴びせられたコップ一杯の冷水だった。犯人はサラの八つ上のグレンという少年だ。  十五歳である彼は孤児院の子供の中では年長者であり、職員の目を盗んで他の子をいじめることも多々あった。とりわけサラに対しては。 『誰かに言ったらバラバラにして鳥に食わせるぞ』  何かするたびにグレンはそう言って脅してきた。今日もそうだった。幼いサラはその言葉を鵜呑みにして、職員の誰にも自身に対する執拗ないじめを報告することはなかった。  だいぶ水気が取れてから着替え、サラは濡れた枕を持って部屋を出た。悲しくて、悔しくて、涙が溢れそうになるのを必死に堪える。泣いてはだめだ。泣いたらいじめられていたのがバレてしまう。バレたらバラバラにされる。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!