フェードアウトの結末

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 一体、この一か月で何があったというのか。そして何故、使用している路線も違った彼がこんなところにいるのか。 「なんで? それはこっちの台詞だと思うけど」  彼とは文字のみのやりとりの間も、顔を突き合せて話したときも、これといった印象がなかった。当たり障りのない会話、良くも悪くもない容姿。それでも敢えて何度かデートを重ねたのは、彼の申告した年収が多少人より上回っていたからだった。帰宅後「大切な話があるから」と次の約束を取り付けようと送られてきた文字を見て、マリは面倒になってしまった。十中八九、お付き合いの提案だろうがこちらにはまったくその気がない。深く考えず、マリはブロックの設定をした。彼にもきっともっとぴったりの相手が現れることだろう。婚活アプリなんて所詮そんな世界だ。いちいち思い入れを持って対応していたらキリがない。  ただでさえ、マリはアプリ内での人気がかなり上位で、引っ切りなしに複数の男とやりとりをしていた。何人もの男と同時並行で事を進める煩雑さと、繁忙期を迎えた仕事の兼ね合いがつかなくなり、そして何より通り一遍の言葉しか寄越さない独身男性どもの相手に飽きてしまった彼女は、すっぱり婚活を諦めた。 「なんで返事もくれないの。いくら奢ったと思ってんの。そんなの、人として許されないってわかるよね?」  滔滔と続く言葉。頭が追いつかない。彼はこんなおかしな人だっただろうか。ごくごく普通の、良識ある男ではなかったのか。ただ数回の食事だけでここまで思い込めるとは。マリは顔を歪めた。 「なあ、教えてくれよ。俺の何が悪かった?」 「うーん……」  ちらりと周囲を窺う。人気のない改札前だが、何事かと駅員がこちらに意識を向けているのがわかるし、向こうのほうのサラリーマンの集団が心配そうに窺っているのも見える。いざとなったら彼らに助けを求めれば良い。マリは殊更冷たい表情を作り、吐き捨てた。 「別に。そんなことより、ずっと私を探してたんですか? そういうの迷惑なんでやめてください。警察に相談させてもらいます」 「話を逸らすな。理由を聞かせろと言ってるんだ」  ため息が零れる。頭が痛い。完全に彼はおかしくなっている。マリはうろうろと視線を彷徨わせて、す、と目についたそれを指差した。 「強いて言えば、その耳たぶのほくろかな。生理的に無理だなって」
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