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そのまま私は、足の赴くままに街を歩いた。林立するビル群。ガラス越しにオフィスが見えた。新入社員だろうか。若い男の子が、上司と思しき人に書類を投げつけられていた。どうしてこんなことも出来ないんだ、そんな声が聞こえてくるようだった。
カフェに入り、コーヒーを注文する。しばらくして、眼鏡をかけた女の店員さんが慌ただしくやってきた。あ、と思った時には、私のスーツにコーヒーがかかっていた。ごめんなさい! と店員さんは勢いよく頭を下げる。私は大丈夫だと言ったのだけれど、店の奥から店長が出てきて、スーツを弁償すると言う。私は大丈夫だからとその申し出を断った。店を出る間際、店長がコーヒーをこぼした店員を怒鳴りつけているのが、ちらりと見えた。
日は暮れて、私は公園にあった青いベンチへと腰掛けた。しばらく落ちていく夕陽を眺めていると、小学生の集団がやってきた。
そこには、かつての私がいた。
ランドセルをいくつも背負った、小柄な男の子。その先を、何も背負っていない身軽そうに何人もの男の子が駆けていく。
私は立ち上がって、ランドセルを持たされている男の子に声をかける。
「大丈夫か」
男の子のからだが、びくんと跳ねる。
「驚かせてすまない」
「おじさん、テレビで見たことある……えらい人でしょ」
「ああ。それより、そのランドセル。全部ここに下ろしてしまえ。あいつらに自分で背負わせるんだ」
「……できないよ、そんなこと」
「大丈夫だ。おじさんからもあいつらに言ってやるから」
「いみないよ、そんなの!」
じわりと、男の子の目に涙が浮かぶ。
「そんなことしたら、学校でもっとひどいことされるだけだもん!」
「だが、何か行動を起こさなければ」
「じゃあおじさんが僕をまもってくれるの!? そんなことできるわけないでしょ!?」
「そ、それは……」
「おじさん、月曜日をなくした人だよね……。でも、それがなんなの。火曜日をなくしたからなんなの、水曜日も木曜日も日曜日もなくしたからなんなの……そんなのかんけいない。僕は毎日ゆううつだよ!」
言って、男の子は駆け出してしまう。
私は、頭を殴られたような思いがして、倒れ込むように青いベンチへ腰掛けた。
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