宇宙の外のクオリア

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◇  地球の文明はそろそろ終わる。神々の間では前々から言われていたことであるのだが、とうとう放っておけない事態になって来たので、私に白羽の矢が立った。正確には、放っておけない、というのは言い過ぎで、地球人類が滅んでも、神々にとって困ることは特にない。それが神という者だ。ただ、神々にとっても地球人類は中々に良い出来で、永きに渡って見守ってきた思い入れがあるのだ。神とはそういうものなのだ。  私の当面の仕事はモノの増え過ぎた地球を綺麗にすること。しかし、どのようにしてやるのが良いかという案が思いつかず、地球に降りてきたのだった。 「かみさまなのに、わからないことがあるんです?」  出会ったばかりのマシロはそう尋ねてきた。 「神は思いついたことは大体できるけど、実は全知じゃないんだ。知らないことは知らないし、わからないことはわからない。でも、こんなことはできるよ」  私が二回手を叩くと、荒廃した世界に似合わないカラフルな紙の箱が現れた。箱を開けると、マカロンやカヌレ、マドレーヌなどさまざまなお菓子が出てくる。開けるたびに、新しいお菓子が追加される。そのお菓子が何というものなのか、そもそも食べ物なのかも知らなかったマシロだが、一つマシュマロを口に入れると、私が神であるということを認めたようであった。  すっかり陽が落ちると、私たちは火を起こし、テントを張る。そして、箱から出てきたお菓子を食べて眠る。 「かみさま、かみさま! 何か知らないやつが出てきました」  興奮気味にマシロが私の肩を叩いた。見ると、宝石のような赤い玉に割り箸を刺したものを手に持っている。 「それは林檎飴だよ。昔食べたことがある」 「りんごあめ。あめですか、知ってます! 綺麗ですねえ」  そう言ってマシロは林檎飴を懸命に舐め始めた。そのペースでは食べきる頃には夜が明けてしまう。私は箱から林檎飴を出し、齧って食べて見せた。マシロは、私が林檎飴を食べる様子をじっと観察した後、自分の林檎に噛みついた。その噛み跡は私のものに比べてずいぶんと小さかったが、赤い宝玉の中から白いリンゴの果肉が現れた。
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