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飛んだ彼女
あれからずっと彼女のことを考えている。
顔も知らない彼女のことを。
私もいっそのこと死んでしまおうか
たまにそんな事さえ考えた。
実際にできないくせに。
彼女にはできた。
彼女は空を高く飛んだ。
彼女は、希望を信じて、風にのった。
彼女はきっと、生きる事さえも、死ぬ事さえも、死に物狂いだったのだろう。
よく、「自殺は現実逃避」だとか「自殺なんて構って欲しいだけだろ」とか「現実から目を背けるな」とか「死ぬ勇気があるならなんでもできたはずなのに」とかいう言葉が耳に入る。
私は、そうは思わない。
現実逃避のために、空を飛べるのか?
構って欲しくて、戻らない命を簡単に捨てるのか?
現実から目を背けるために、死を選ぶのか?
死ぬ勇気があったら生きる事だってできたのか?
いや、違う。
彼女は現実を受け止めて、それでもだめで、空を飛んだはずだ。
自分の存在を認めて欲しくて飛んだはずだ。
現実を最後の最後まで目に焼き付けて、飛んだはずだ。
そして、死ぬ勇気は死ぬ事にしか使えない。生きて生きて生きて、それでもだめで、空を飛んだはずだ。
彼女は彼女として、一人の人間として、最後まで生きていたんだ。
私はそう思う。
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