窓辺

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 とある歳下の男の子のことを思いだす。  誕生日プレゼントをくれた。  私は自分の誕生日が近づくと色んな人に冗談交じりに誕生日プレゼントをねだっていた。もちろん私の話し方で冗談で言っているのは誰もがわかっていた。もちろん彼も。それでも彼曰く、私が誰に言ったのかわざわざ覚えていなかったため何回もねだっていたらしく本当に買ってきてくれた。  他の普段接している人たちと比べると、けっしてよく話している仲とは言えないほどの人だった。  よく話を聞いてくれた。  仕事がうまくいっていない時だった。まだまだ何でも話せる仲とは言えないため、今となっては何を話したのかすら覚えていないほどのちょっとした愚痴程度だった気がする。それでも、すごく気にかけてくれていたのは今でもよく覚えている。  目薬を買ってきてくれた。  私は普段よく目薬をさす。目薬をさし目から溢れた雫をハンカチで拭うため、一時的に容器を机の上に置いていると「もう残り少ないね」とたまたま近くにいた彼が私の目薬の容器の中身がもう無くなりそうなのが目についたらしく、声をかけてきた。私は日頃から口にする言葉のほとんどは冗談だ。もちろん彼もそれはわかっている。私はいつもどおりの冗談で「買ってきて! 私たぶん買いに行く時間がないから」と返した。そうしたら本当に買ってきてくれた。まさか本当に買ってきてくれるとは思わなかったので「ありがとう。優しいね」と言っておいた。  彼は私に好意を持っていたらしい。でも、その想いに応えることはできなかった。中途半端に可能性があるように思わせるのも悪いため、しっかりと断った。彼はどう思ったのだろうか。それでも彼は「明日からも、いつもどおり接してください」と言ってくれた。  誕生日プレゼントをねだってきた。自分も貰ったし何か返さないとと思っていたため、休みの日に外を出歩くついでに買っておいて当日過ぎに彼に渡した。渡すタイミングがなく三日くらい過ぎてしまったけれど、彼はすごく喜んでいた。  いつのまにかよく話すようになっていた気がする。他の普段接している人たちと同じくらいに。  しかしもう彼に会うことはできない。連絡することも、話すことも。  彼はもう……。  亡くなってしまったのだから――――。  私の人生のほんの一部の思い出。そんな彼のことを思い出していた。
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