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そこからはもう地獄のようでした。私を庇ってくれる人など誰もおらず、私を守ってくれる人など何処にいる訳もなく、私を見れば皆目を逸らし、眉を顰め、口を閉ざし、私の後ろ姿だけにひそひそと悪い言葉を吐き出すばかり。その時の私は歩くサンドバッグでした。ただひたすら話を聞いて回っていた頃より確実に、皆の心の拠り所になっていたのは間違いありません。ただし、誰も救われない方向で。私も不幸せ、皆も不幸せ。でも、それを幸せだと思って疑わないのです。誰も彼もが。それで良しとしたのです。自身の不幸から目を逸らし、誰かを槍玉に上げることの愚かさなど二の次。自分の憂さを晴らし、自分より不幸な誰かを見ることで発散された気になるだけの悪どい手法によって、あちらこちらに不穏な火種が飛び交っていました。私はそれを見ていられなかったのです。皆がずぶりずぶりと沈んでいくようでした。憐れでした。そしてそれを、愛おしいとも、思いました。私は彼等から憎まれているかのようだったというのに。それでも救いたいと思ってしまったのです。
愚かでしょう。哀れでしょう。どうしようもないくらい、どうしようもないでしょう。
でも私にとっての正義と、私にとっての正解は、少しもぶれることはなかったのです。私は神様のお声を聞くことが出来なくなりましたが、それでも神様に一生を誓ったことをなかったことにはできなかったのです。
しかし人々は追撃の手を止めることはありませんでした。私を本物の地獄に堕とすまでは、きっと止めるつもりもなかったのでしょう。
現れたのは、新たな『神の使者』でした。私は本当に用済みになったのでした。使者である彼女は言いました。
「かの女は神聖にあらず。穢れた体では神との交わりなど不可能。神は怒っておられる。今すぐ奴を殺すべし。さすれば我々は幸福へと導かれるであろう」
ああ。全くの出任せでしたのに。誰にも否定することなどできなかった。もちろん、私にも。
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